海水中に溶けている元素は、塩素、ナトリウムを除くと単体のイオンの形で存在することは稀で、ほとんどが分子の化学種の形態となっているなど、次のことがらが世界の海洋研究者によって明らかにされています。
工学博士 角田豊先生は、海洋深層水の実態を次のように説明しています。
海水1リットル中に塩素やナトリウムは10g以上含まれているが、微量元素、あるいは超微量元素はナノグラム(ng)又はそれ以下の濃度で存在している。カルシウム、リン、イオウ、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウム以外は濃度が低い。
海水中の微量元素の濃度が低いのは、主に元素の海水中の平均滞留時間が短いためとされています。
多くの微量元素は海水中で安定的なイオンになりにくく、浮遊物質などに吸着されたりするのが主です。
微量元素は、その深度により溶存濃度形態が異なることが知られており、深度により3タイプの大別分類されています。
Aグループ
塩素ナトリウムなどの主要元素と同様、深度によりあまり変化しない元素群
→ ウラン、モリブデン、バナジウム、タングステン等
Bグループ
表層で少なく深度が増すにつれて増加する元素群
→ 鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、カドミウム等
Cグループ
表層で多いが深層では少ない元素群
→ アルミニウム、鉛、コバルト等
海水中の元素の分布は、元素自体の溶液化学物質が相互に関連していることが知られています。
海洋循環の中で海洋深層水は、深層から表層へ湧昇する時において単層からそのまま表層に湧昇することはなく、各層の海水を抱え込みながら上昇します。
生物界が湧昇地域のミネラル豊富な多様性によって安定であるように、深層水の湧昇海域も深度のそれぞれの異なる深層水の混合具合によって成り立っています。
深層水中に微量元素・ミネラルは、硝酸態窒素やリン酸態リン、ケイ酸態珪素の栄養塩類のように豊富に存在している訳ではありません。
深度を増すと増加するものや逆に減少するもの、あるいは深度の変化に関係なく一定の濃度分布を示す元素などに分類される為に深層水に併せて表層水取水の発想の転換が行われました。
このような科学的な根拠に基づいて、深層水の特徴を最大限に活かした用途開発が進められるようになりました。
高知県海洋深層水研究施設は320mの深度から取水していましたが、1994年2本目の取水管が施設されました。
ハワイ自然エネルギー研究所は、水深600mの海域から水温6℃の取水と、また水深17m水温25℃の表層水も併せて取水しています。
1970年頃、米国コロンビア大学のローエル教授によって、人工的な湧昇を利用する研究に着手され、カリブ海セントクロイ島での水産海産物の培養養殖のシステムが開発されました。
深層中に必須微量元素が集中せず、不安定な海水であることが理解できると思います。
東京大学理学部教授高橋正征著書「海洋深層水利用」の中で、次のように述べられています。
海洋深層水を資源として利用しようとすると、量は多くても資源密度が低くて利用は容易ではありません。人類はまだ低濃度資源の利用技術を手にしていないのです。深層水の利用は簡単そうなことが、実は大変難しいと思い知らされています。
東京大学理学部教授高橋正征著書「海洋深層水利用」
以上のように、海洋深層水には微量元素(ミネラル)の量が非常に濃度が低いことを検証されています。
ところが海洋深層水は魔法の水、神秘の水と、マスコミが異常なほど過剰宣伝をやったため、多くの人々が深層水を利用し、海洋深層水に便乗して深層水ミネラル、基礎化粧品、海洋ミネラル濃縮液等の製品が市場に氾濫してしまいました。
海洋深層水の組成が低濃度であることは世界中の学者の認めていることであり、海洋深層水に関わっている技術人の常識です。
既存の海洋深層水研究所の技術人がこのような実態に直面しながら、無批判に見過ごしていることが理解できません。